
外壁塗装における下地材の役割とは
外壁塗装というと、どうしても「どんな色にしよう」「どの塗料にしよう」と仕上げのイメージに目が行きがちです。しかし、実はその前の「下地材」や「下地処理」が仕上がりと耐久性を大きく左右します。どれだけ高性能な塗料を選んでも、下地が整っていなければ、本来の性能を発揮できず、早期の剥がれやひび割れの原因になってしまいます。
ここでいう下地材とは、モルタルやサイディング、コンクリートなど「外壁を構成している材料」そのものや、その上に施す「シーラー・プライマー」といった塗料と塗膜をつなぐ役割の材料を指します。これらが塗料の密着性を高め、雨や紫外線、温度変化から住まいを守る土台になっているのです。
外壁塗装の長持ち具合は「塗料のグレード×職人の技術×下地の状態」で決まるといわれます。中でも下地材への理解は、見積もり内容を見極めるうえでも重要ですので、まずは種類や特徴を押さえておきましょう。
代表的な外壁の下地材の種類と特徴
外壁の下地材にはいくつか種類があり、それぞれで適した塗料やメンテナンス方法が異なります。ここでは戸建て住宅でよく使われる代表的な下地材をご紹介します。自宅の外壁がどれに当てはまるかを把握しておくと、業者との打ち合わせもスムーズになります。
モルタル外壁の下地材
モルタル外壁は、セメントと砂と水を混ぜて塗りつけた昔ながらの工法です。コテで仕上げるためデザイン性が高く、塗り壁の風合いを好む方に人気があります。一方で、経年劣化によるひび割れ(クラック)が起きやすく、そこから雨水が入り込むリスクがあります。
モルタル外壁に塗装する場合は、ひび割れの補修や浮き・欠けの補修といった下地処理がとても重要です。小さなヘアクラックであれば、下地調整材や弾性塗料でカバーできますが、大きなクラックはUカットやシーリングでしっかり補修しないと再発につながります。
窯業系サイディングの下地材
現在の戸建て住宅で最も多いのが窯業系サイディングです。セメント質と繊維質を主原料とした板材で、デザインのバリエーションが豊富なのが特長です。ただし、ボード同士の継ぎ目にあるシーリング部分の劣化や、表面の塗膜切れによる吸水には注意が必要です。
窯業系サイディングの塗装では、下塗りに「サイディング専用シーラー」や「微弾性フィラー」を使い、素地の吸い込みを抑えつつ、塗料の密着を高めます。チョーキング(白い粉ふき)が出ている場合は、高圧洗浄と丁寧な下地処理で古い塗膜をしっかり落としてから塗装することが大切です。
金属サイディングの下地材
金属サイディングは、ガルバリウム鋼板などの金属板を使った外壁材です。軽量で耐久性が高く、スタイリッシュなデザインが人気ですが、サビやへこみなど金属特有のトラブルも起こり得ます。
金属サイディングには、金属に対応したエポキシ系の下塗り材(プライマー)を使用するのが一般的です。適切な下地材を使わないと、塗膜が早期に剥がれてしまうことがあるため、見積もり時にどんなプライマーを使うのか確認しておくと安心です。
ALC外壁の下地材
ALCは軽量気泡コンクリートと呼ばれ、軽くて断熱性に優れた外壁材です。内部に細かな気泡を含んでいるため、吸水しやすいという性質があります。そのため、ALC外壁では防水性の高い塗料と、吸い込みを抑えるための下塗り材が重要になります。
ALCの場合、下塗りに厚塗りできるフィラーや、浸透性の高いシーラーを用いて、素地をしっかりと固めたうえで中塗り・上塗りへと進むのが一般的です。継ぎ目のシーリングや鉄部との取り合い部分の処理も、下地材と合わせてチェックしたいポイントです。
下地の状態別に見るチェックポイント
同じ下地材であっても、傷み具合や劣化の進行状況によって、必要な下地処理の内容は変わります。ここでは、外壁の状態ごとに押さえておきたいチェックポイントをまとめます。現地調査の際に、業者がどこまで見てくれているかを確認する目安にもなります。
ひび割れ(クラック)がある場合
モルタル外壁やコンクリート外壁では、経年劣化や地震・乾燥収縮などによりひび割れが起こりやすくなります。髪の毛ほどの細いひび割れはヘアクラックと呼ばれ、大きな問題になりにくいものの、放置すると雨水の浸入経路になる恐れもあります。
ひび割れが大きい場合は、UカットやVカット工法で一度ひびを広げ、シーリング材を充填したうえで、さらに下地調整材で表面を整える工程が必要です。この補修を丁寧に行うことで、上から塗装してもひびが目立ちにくくなり、再発も防ぎやすくなります。
チョーキング(粉ふき)が出ている場合
外壁を指でこすると白い粉がつく状態をチョーキングといいます。これは塗膜が紫外線や雨により劣化し、防水性が落ちてきたサインです。チョーキングが出ている状態でそのまま塗装すると、下地と塗料がしっかり密着せず、早期の剥がれにつながる可能性があります。
そのため、チョーキングが見られる外壁は、高圧洗浄やケレン作業でしっかりと粉を落とし、そのうえでシーラーやフィラーといった下塗り材を塗布していきます。見積もりに「高圧洗浄○㎡」「ケレン・素地調整」といった項目があるかどうかもチェックしておきましょう。
カビ・コケ・藻が発生している場合
北側の壁や湿気の多い場所では、カビやコケ、藻などの汚れが目立ちやすくなります。これらは見た目の印象を悪くするだけでなく、外壁材を傷める原因にもなります。
カビやコケが多い場合は、高圧洗浄に加えてバイオ洗浄剤を使い、根本からきれいに洗い流すことが理想的です。そのうえで防カビ・防藻性能のある塗料を選ぶと、汚れの再発を抑えやすくなります。
シーリングの劣化が目立つ場合
窯業系サイディングの継ぎ目やサッシ周りには、シーリング材が施工されています。ひび割れ・肉やせ・剥離などの症状が出ている場合は、塗装前にシーリングの打ち替えや増し打ちが必須です。
シーリングを先に直してから塗装することで、塗膜と一体となって防水性を高めることができます。逆に、シーリング補修を省略してしまうと、せっかく塗装しても隙間から水が入り込み、早期の雨漏りにつながりかねません。
下地材と相性の良い塗料選びのポイント
下地材の種類と状態が分かったら、次に考えたいのが「どんな塗料を組み合わせるか」という点です。下地と塗料の相性が悪いと、きれいに仕上がっても数年で剥がれてしまうケースがあります。ここでは、外壁塗装でよく選ばれる塗料の考え方を整理します。
水性・溶剤(油性)塗料の選び方
外壁塗装には大きく分けて水性塗料と溶剤(油性)塗料があります。最近は環境への配慮から水性塗料が主流ですが、密着性や耐久性の面で溶剤塗料が適している場面もあります。
例えば、金属サイディングや付帯部の鉄部には、溶剤系の錆止めや上塗り塗料を使うことが一般的です。一方、窯業系サイディングやモルタル外壁では、高性能な水性塗料でも十分な耐久性を確保できるようになってきています。下地材と塗料の組み合わせを、メーカーの仕様書に沿って選んでいるかが重要なチェックポイントです。
弾性塗料と硬質塗料の使い分け
ひび割れが起こりやすいモルタル外壁には、ゴムのような柔らかさを持つ弾性塗料がよく使われます。下地の動きに追従してくれるため、ヘアクラックの再発を表面に出にくくする効果が期待できます。
ただし、弾性塗料はサイディング外壁には不向きな場合もあります。通気層構造を持つ窯業系サイディングに厚い弾性塗膜を作ると、内部に湿気がこもりやすくなり、塗膜の膨れや剥がれの原因になることがあるからです。下地材の構造を踏まえて、弾性か硬質かを使い分けることが大切です。
透湿性・防水性のバランス
外壁塗装では「雨水は通さないけれど、内部の湿気は逃がす」という透湿性と防水性のバランスも重要です。特にALCやモルタルのように水を吸いやすい下地材では、透湿性の低い塗料で外側を完全にふさいでしまうと、内部に溜まった水分が抜けにくくなり、凍害や塗膜の膨れにつながることがあります。
そのため、下地材の性質に合わせて、透湿性のあるシリコン塗料やフッ素塗料、ラジカル制御型塗料などを選ぶことがポイントです。単に「耐用年数が長いから」という理由だけで選ぶのではなく、下地との相性を含めた提案をしてくれる業者かどうかを見極めましょう。
良い業者を見分けるための下地処理チェック
ここまで見てきたように、「外壁塗装 下地材」は、仕上がりと耐久性を左右する重要な要素です。しかし、一般の方からは見えにくい部分でもあるため、業者選びをする際には下地処理にどれだけ力を入れているかを確認することが大切です。
現地調査でのチェックポイント
信頼できる業者は、現地調査の際に以下のような点を細かく確認します。
・外壁材の種類(モルタル・サイディング・ALCなど)
・ひび割れの有無と大きさ
・チョーキングの程度
・カビ・コケ・藻の発生状況
・シーリングの劣化状態
・ベランダや屋根との取り合い部分の防水状況
これらを写真で記録しながら説明してくれる業者であれば、下地材の状態を踏まえた提案をしてくれる可能性が高いといえます。
見積もりに下地処理の項目が含まれているか
見積書を見るときは、「下地処理」に関する項目がどれだけ記載されているかを必ず確認しましょう。例えば、次のような表現があると安心材料になります。
・高圧洗浄 ○㎡
・ひび割れ補修(Vカット・Uカット) ○m
・シーリング打ち替え ○m
・ケレン・素地調整 ○㎡
・下塗り材(シーラー・フィラー)の種類とメーカー名
逆に、「一式」としか書かれていない場合は、どこまで丁寧に施工してくれるのか判断しにくくなります。気になる場合は、項目を細かく分けた見積書を出し直してもらうとよいでしょう。
施工中の写真や報告をしてくれるか
下地処理は工事が始まってしまうと現場に行かない限り見ることができません。そのため、施工中の写真や進捗報告をしてくれるかどうかも、業者選びの大切なポイントです。
高圧洗浄前後の写真、ひび割れ補修後の写真、シーリング打ち替え前後の写真などを残してくれる業者であれば、「見えない部分も丁寧にやっている」という安心感につながります。
まとめ:下地材を理解して外壁塗装の質を高めよう
外壁塗装を成功させるカギは、目に見える仕上げだけでなく、その下にある「下地材」と「下地処理」にあります。モルタル・サイディング・ALCなど下地材の種類を知り、それぞれに合った下塗り材や塗料を選ぶことで、塗装の持ちや美観は大きく変わります。
また、ひび割れやチョーキング、カビ・コケ、シーリングの劣化など、外壁の状態に応じた適切な補修が行われているかどうかも重要です。見積書や現地調査の内容をチェックし、「どんな下地材で、どんな下地処理をするのか」を説明してくれる業者を選ぶことで、納得のいく外壁塗装に近づけるはずです。
外壁塗装を検討する際は、「外壁塗装 下地材」という視点をぜひ意識してみてください。下地にこだわることで、大切な住まいを長く、きれいに守ることができます。
