
なぜ下地処理が外壁塗装の要なのか
仕上げ塗料の性能は、清潔で健全な下地・適切な含水率・平滑な素地の上でこそ発揮されます。見た目は同じでも、下地処理が甘いと早期剥離や色ムラ、藻やカビの再発が起きます。まずは「下地の診断→洗浄→劣化除去→補修→素地調整→乾燥確認→下塗り」の順序を理解しましょう。以降の小セクションで、各工程の目的とチェックポイントを具体的に説明します。
下地診断の基本
外壁材(窯業系サイディング、モルタル、ALC、金属)と既存塗膜の種類を特定します。チョーキング、ヘアクラック、シーリング劣化、藻・カビ、錆の有無を面ごとに評価し、処置の優先順位を決定します。必要に応じて含水率や素地強度の簡易テストも行います。
工程の全体設計
高圧洗浄→旧塗膜の脆弱部除去→補修(クラック・欠損・錆処理)→素地調整(段差ならし・目粗し)→乾燥→下塗りの流れを、天候と乾燥時間を加味して工程表に落とし込むことが重要です。
高圧洗浄とバイオ洗浄:汚れを落とす“基礎”
洗浄は密着不良や早期汚染を防ぐ最初の関門です。単に水で流すのではなく、汚れの種類に応じて圧力・洗浄剤・ブラッシングを組み合わせます。ここでの手抜きは後工程で取り返せないため、基準の明記と写真記録が鍵になります。
高圧洗浄のポイント
一般的に外壁は10〜15MPa前後を目安に、付帯や脆弱部は圧を落として丁寧に。目地やサイディングの小口へ逆目に水を打たない、養生前に全周を確実に行うなど、素材ごとの配慮が必要です。
バイオ洗浄・薬剤洗浄
藻・カビが強い北面や日陰は、専用洗浄剤で分解→すすぎ。金属面のもらい錆はケミカルで除去し、その後中和・水洗いを徹底します。洗浄剤は希釈率と作用時間を守ることが重要です。
劣化要因の除去:密着を阻む原因を断つ
洗浄後も、粉化した旧塗膜や脆弱部、錆は残ります。これらを取り除かないと、下塗りが密着せず剥離の起点になります。次の小セクションで除去と素地調整を合わせて解説します。
チョーキングと脆弱塗膜の処理
白亜化が強い場合はケレンや研磨パッドで粉化層を物理的に除去します。旧塗膜の浮き・剥がれは、段差が残らないようにサンダーでならし、粉じんを拭き取り。最終的に手で擦って粉が付かないレベルまで落とします。
錆・腐食の処理(金属サイディング・付帯)
赤錆はスクレーパー・ワイヤーブラシ・サンダーでST2〜3程度の目標までケレン。錆転換材や防錆下塗り(エポキシ系など)を適材適所で用い、孔食はパテや板金補修で天端を平滑化します。
補修と下地強化:弱点を“直してから”塗る
補修は塗装のやり直しを防ぐ保険です。クラックや目地、欠損部を先に直し、面を整えてから下塗りに進みます。補修剤の選定と養生時間が耐久性に直結します。
モルタルのクラック補修
微細クラックは微弾性フィラーで埋め、構造クラックはVカットやUカット後にプライマー→シーリング材→樹脂モルタルで成形。仕上げの肌合わせ(刷毛引き・ローラー肌)で目立ちを抑えます。
サイディングのシーリング更新
基本は打ち替え(既存撤去→プライマー→新規充填)。増し打ちは既存が健全な場合に限定します。三面接着防止のバックアップ材、変成シリコンやウレタンなどの材料選定、乾燥時間の確保が要点です。
素地調整(サンディング・フィラー・パテ):“平滑さ”をつくる
塗膜の美観と耐久は、平滑な素地で大きく変わります。段差や凹凸は後から透けやすく、艶ムラの原因になります。以下の小セクションで、材質別の素地調整を具体化します。
サンディングと目粗し
旧塗膜の艶消しや付着力向上のために、番手を変えながら均一に研磨します。金属はケレン後に目荒らしを、サイディングはリシン系の粉を落としてから全体を整えます。
フィラー・パテの使い分け
微弾性フィラーはモルタルの微細ひび対策と吸い込み調整に有効。段差・巣穴は外装用パテで埋め、面を取ってから再研磨。ALCは吸い込みが大きいため、下塗り前に厚めの下地調整材で平滑性と止水性を上げます。
乾燥と含水率:タイミング管理が命
乾燥不足は膨れ・剥離の最大要因です。洗浄後や補修後、下塗り後のインターバルを守り、素地の含水率を適正に保ちます。ここを疎かにすると、上塗りの性能が活きません。
乾燥条件の目安
気温5℃未満・湿度85%以上は原則避け、低温高湿時は延長乾燥や翌日繰越。日射や風通しを考慮し、北面やバルコニー内側は乾きにくい点を計画に織り込みます。
含水率・中性化
モルタル・ALCは含水率が高いと密着不良が出やすく、雨後は十分な待機が必要。新規モルタルはアルカリが強い場合があるため、下塗り前に中性化・pH確認や期間の確保が望ましいです。
下塗り(シーラー/プライマー/バインダー):“接着剤”の役割
下塗りは上塗りを「乗せる」接着橋です。素地と旧塗膜の状態に合わせて、シーラー・プライマー・フィラーを選定し、標準塗布量と希釈率を守ります。ここからの小セクションで、材質別の下塗り選びを示します。
サイディングの下塗り
吸い込みが強い面は浸透形シーラーで固化、チョーキングが残る面はバインダーで粉を固めます。意匠サイディングのクリヤー仕上げは劣化が軽微な段階で。チョーキングが強いとクリヤーは不適です。
モルタル・ALCの下塗り
微弾性フィラーでヘアクラックを包み、吸い込みムラを抑えます。ALCは防水層の健全性確認と厚めの下地調整材がポイントです。
金属系外壁・付帯の要点:錆と密着を制する
金属は局所の錆と付着力が勝負。点錆の放置は面で拡大し、早期剥離に直結します。適切なケレン値と防錆下塗り、上塗りとの相性が重要です。次項で具体の流れを再確認します。
ケレン→防錆→下塗り
素地調整(ケレン)で錆を物理除去→エポキシ防錆→適合プライマー。トタン・ガルバなど材質別に推奨系統が異なるため、製品カタログの適用下地を必ず照合します。
付帯部の分離管理
雨樋・破風・雨戸などは外壁と別管理で仕様書に記載。外壁が水性でも付帯は弱溶剤2液が適する場面があり、艶も合わせて設計します。
品質確認:試験と記録で“可視化”する
良い下地処理は、工程ごとの確認と記録で裏付けられます。言った言わないを防ぎ、万が一の際の再現性を高めるためにも、目視+試験+写真がセットです。
密着試験・吸い込み確認
クロスカットやテープ試験で密着を確認。吸い込みが残る場合は追加下塗りで均一化します。局所で合格しても面で差が出ないか、複数点で確認します。
写真台帳・使用缶管理
洗浄前後・補修前後・下塗り完了・上塗り各回の写真と、使用缶の撮影・塗布量計算を台帳化。後日のメンテ計画にも活用できます。
よくある失敗と予防策:原因と対処をセットで
下地処理の失敗は、現場で繰り返しがちな“あるある”から生まれます。次の小セクションで、実務で起こりやすいミスと、事前に断つ方法を具体的に挙げます。
乾燥不足による膨れ・剥離
雨上がり後の短期再開、北面の再塗装を急いだなどが原因。工程表で乾燥日を確保し、含水率や気象条件を共有します。
脆弱塗膜の残存
見える範囲だけのケレンで終えてしまう例。斜光で面を確認し、手擦りテストで粉の付着を最終確認します。
シーリングの不適切な方式
打ち替えが必要なのに増し打ちで済ませる、プライマー省略など。仕様書に方式・材料・m数・養生時間を明記して管理します。
見積もりで確認すべき下地処理の“根拠”
良い下地処理は見積と現場管理に表れます。ここで紹介する項目を、相見積もりの共通条件として提示すれば、“揃った土俵”で比較できます。短い説明で済ませず、必ず具体化された根拠を要求しましょう。
コピペして使えるチェックリスト
・洗浄:圧力(MPa)、洗浄剤の有無、作用時間とすすぎ方法
・旧塗膜処理:ケレン範囲、研磨方法、番手、段差処理の記載
・補修:クラック方式(V/Uカット/フィラー)、材料名、乾燥時間
・シーリング:打ち替え/増し打ち、材料、プライマー、m数
・素地調整:フィラー/パテの種類と部位、研磨番手
・下塗り:製品名、希釈率、標準塗布量、乾燥時間、適用下地
・金属:ケレン等級、防錆下塗りの系統、適合上塗り
・乾燥管理:施工可能温湿度、含水率の目安、雨天順延基準
・検査:密着試験の有無、写真台帳、使用缶撮影の運用
季節・立地別の工夫:実効耐久をのばすコツ
同じ家でも、季節・立地・周辺環境で下地処理の最適解は変わります。最後に、環境別の工夫ポイントを整理し、実効耐久をのばす具体策で締めくくります。
梅雨・冬の施工
乾燥時間を延ばし、工程を分割。朝露・霜に注意し、午前中は乾燥確認に充てるなど時間帯の工夫をします。暖気や送風で無理に乾かすより、自然乾燥の確保が基本です。
沿岸部・幹線道路沿い
塩害・粉じん対策として、洗浄を丁寧にし、防錆・低汚染の仕様を採用。完了後の定期洗浄(ホース洗い)を推奨し、メンテ計画をセットで渡します。
まとめ:下地処理は“見えない工程”を可視化して品質を守る
下地処理は、洗浄・除去・補修・素地調整・乾燥・下塗りという地味な積み重ねの総称です。ここを丁寧にやった現場ほど、塗装の持ちと美観が安定します。見積段階で根拠を揃え、現場では乾燥と記録を徹底する。これが早期トラブルを避け、将来のメンテナンスも楽にする最短ルートです。今日の1日分の丁寧さが、10年後の満足度を左右します。だからこそ、下地処理の可視化と合意形成にこだわり、納得のいく工事を実現しましょう。
